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小児科医・水谷修紀先生の声 第2回




「見えないものを見、聞こえないものを聞こうとする力」



小児科医・水谷修紀先生



小児科医として、小児がんや白血病の子どもたちを治療してきた水谷修紀先生。病気と闘う子どもたちとの日々や、小児科医として大切にしていることを伺いました。



―――



笑い


ぼくは笑って病気を治そうと思う

ずっとずっとそう信じてがんばってきた

でも病気と笑いは正反対だと気がついた

いたい時やしんどい時に

笑おうとしても笑えない

でもぼくはこう思った

かなしい時とかしんどい時とか

つらい時とかの一日も一日

笑ってすごす一日も一日

同じ一日だったら

ぼくはいっぱい笑ってすごす一日のほうがいい

だって病気が早く治るから……



これは、私のお気に入りの作家・よしろうくん(故人)の詩です。根っからの大阪人である、よしろうくんは小学4年生。天才的詩人です。回診に行くたびに新しい作品が部屋に貼られていて、墨筆でしたためた文字は、禅のお坊さんの書体を彷彿とさせるような見事な書きっぷりです。吉本新喜劇が大好きで、回診のたびに私たちを笑わせてくれました。

原因不明の免疫不全症で骨髄移植を受け、よしろうくんの身体の中で新しい血液が生まれ始めたにもかかわらず、免疫力の回復が思わしくなく、肺の感染症が悪化し、足底部にできたびらん(ただれた)箇所の激しい痛みに苦しみました。

そんなよしろうくんが亡くなったのは12歳のとき。あどけない仕草のなかに優れた理解力、思いやり、思考力、表現力がひそみ、12歳の少年とは思えないほどでした。彼のそんな姿を知ってもらいたくて、回診のときに若い研修医や学生の前で彼の作品を朗読させてもらったりもしました。もう一つ、よしろうくんの詩を紹介させてください。彼がプレゼントしてくれたすず入りビーズは、いまでも私の宝物です。



ビーズとすず


ぼくは 今ビーズにこっている

いろんな色のビーズをつないでいる

丸く丸く作っている

その中にすずを入れてみた

すずはぼく

まわりのビーズは、家族、友達、

先生、かんごふさん......

いつもぼくを守ってくれている

いつかぼくもビーズになる。


***


「小児科医は見えないものを見、聞こえないものを聞こうとする力が大事」

研修医や学生たちによく言う言葉です。

病気の子どもたちは、自分の状態や症状をうまく言葉にできない子がほとんどです。そんな実際の表現として出てこない部分を、どう理解するのか。病気だけを見ればいいわけじゃない。子どもたちそれぞれの光るような才能に目を向けることも必要だと思います。


ただ、これは子どもに限ったことではないですよね。口の達者な人やうまく立ち回れる人だけが優れているのでしょうか?否、世の中には、うまく自分を表現できないけれど心の輝く人も多いです。この小児科的な思いがあれば、陰に隠れてしまっていた人たちも紛うかたなき自分でいられるんじゃないでしょうか。


生き方を言葉でなく、行動で示す人。私自身も、こういう大人たちによって育てられたと思っています。

一つ思い出があります。子どものころ遊び場にしていた大きなため池。ある日その周りでいつものように近所の仲間たちと遊んでいたとき、幼稚園の女の子が足をすべらせて、ため池の中に落ちてしまったんです。水に沈みながらもがくその子の様子になす術もなく、ただおろおろと叫んでいるばかりだった。そこに、騒ぎを聞いた通りがかりの見ず知らずのおじさんが、駆けつけて来て、服を着たままため池に飛び込んで女の子を助け上げてくれたんです。皆で女の子の無事を喜び、ひと安心して、ふと振り返ると、おじさんは全身びしょぬれのまま、すたすたとその場を立ち去っていくところだったんです。おじさんの後ろ姿をいまでもはっきりと思い出せます。

決して立派な姿かたちをしているわけでもない、雄弁でもない。ほのかな香りを残して立ち去るという、「無言の人格」。その見返りを求めない姿勢を、次の世代に渡していきたいですね。



―――


第3回につづく



▼水谷先生が立ち上げられた「NPO法人白血病研究基金を育てる会」もご紹介させてください。



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